1786年8月にJ.バルマとM.パカールにより初めて登頂されて以来、 約2世紀が過ぎる。その間、M.バロをはじめとして、ルートの整備、小屋
の建設などがされていった。なお、初期には、ボゾン氷河が登路にとられ、 氷河上のクレバスにはしごを掛けるなどしてのぼられていた。

シャモニーには街の南に2個所のキャンプ場がある。今回は、このうち のl'Ile
des BARRATキャンプ場をベースにした。キャンプ場は、芝のきれい な快適なところであった。トイレや炊事スペースのほか、シャワーもつい
ており、値段も7日泊って290フラン(日本円にして約7200円)であった。 今回の山行では、ヨーロッパに入って体調を壊し、このキャンプ場のテン
トの中で5日間休養をとる事になってしまった。行けるところまで行ければ いいやという事で出発した。
ニーデグルは標高2386mで、ここより1,431m登ったところにエギュドゥグ ーテ(グーテ針峰)とグーテ小屋がある。ニーデグルの駅を出たところか
らグーテの小屋がはるか高いところにみえる。
はじめは、石のごろごろした道を登ってゆく。約3,000mのところで氷河を 横切る。ここにテートルースの小屋がある(標高3,167m)。
これをすぎると、クーロワールを横断するが、これが上部より落石の多い ところで、落石のない時を見計らって、走り抜けなければならない。
午後になるほど落石が多くなるようだ。それは、このクーロワールの上部 で氷が溶け落石が起こるからである。
これを過ぎると、エギュドゥグーテから伸びる尾根を登ってゆく。 かなりの傾斜があるが、岩が連続する中を道がつけられている。
昨日までの体調から、「病上り」の体にこの登りはこたえた。 結局6時間近くかかって、午後3時にグーテ小屋に着いた。
普通なら4−5時間の行程である。
グーテ小屋(Refuge de l'Aig. du Gouter)は標高3817mにあり、富士山頂 よりも高い。気圧はすでに地上の2/3くらいであり、高度障害が出る高
さである。続々と人が来て、ベッドは一人分幅が50cmくらいという、日本 アルプスの混雑した時期並みである。小屋では、食事の時間を除き、眠り
こけていた。食事は、スープと肉と野菜とデザートと一応コースではあった。
9時頃に日が沈むのが見えた。天気はとても良い。

翌朝1:00に起床。2:10に小屋を出た。快晴、星が見えている。はじめ に、稜線をしばらく歩き、ドームドゥグーテ(Dome
du Gouter)の登りに なる。十七夜くらいの月が煌煌とドームの広大な雪の斜面を照らしている。
雪の状態は良く、アイゼンがサクサクきいて気持ち良く歩ける。が、 高度の影響で、体は重い。ゆっくりゆっくりと前進する。約2時間
かけてドームの頂上の左を巻き緩やかに下ってドームのコル(4250m) に出る。
大ボス(Grande Bosses4513m)から小ボス(Petit Bosses4547m)ま での急登を上り詰めると、両側が切れ落ちている稜線を通過する。ものす
ごい高度感がある。右には1000m以上、左も数百mの斜面である。すれ違う 人はいないが、少し気が重くなる。が、そんなことは言っておれず、ピッケ
ルを打ち込み、アイゼンを利かせて、ひたすら登っていく。

ここから見ると、モンブランは平らな円いイメージはなく、三角形に切り 立っている。馬の背のような形になっている。

その稜線を注意深く、薄い空気にあえぎながら登っていくと、傾斜が緩く なり、先の方に人が群がっているのが突然目に入る。ここが頂上だ。
8:00に下山開始。35分間の滞在だった。登りの人とすれ違いながら、注 意深く、アイゼンを利かして、ピッケルで確かめながら、慎重に急な道を
下りる。登りよりも、なお一層、高度感がある。落ちたら終わりだ。まだ 雪は固いので、アイゼンが利くが、午後になって雪が団子になると、大変
なところであろう。
一時間でバロ小屋、さらに1時間でドームのコルに着く。 ここまで来ると、危険な所はなくなり、精神的にはほっとする。ドームの
広大な斜面を降りる。雪は少し腐りはじめている。
岩の尾根を下ってゆく。体調はずいぶん良くなり、昨日の登りで苦労し たのがずっと昔の事のようだ。先に行く人が真下にみえるような急斜面で
ある。落石に注意しながら、それなりに神経を使う道である。1:50にクー ロワールを通過する。テートルース小屋のそばの氷河の縁で休憩。その後
がらがらの道を歩き、ニーデグルに3:20到着。あとは、トラムウェイとロ ープウェイに乗るだけだ。振り返ると、グーテの小屋に、雲がかかりはじ
めていた。
